いつか黄泉へと連れ出して
ノウム・カルデアは夜な夜な宴会が起きるという召喚時の注意事項を聞いた時は二回ほど聞き返してしまったが、本当にその様な組織であった。けれど暫く過ごせばマスター達の注意事項の意味も理解出来た。ここには各国の英霊が召喚されているのだ、酒に関する逸話を持つ英霊も数多く存在する。そんな彼らと酒は切り離せる物ではないのだ。
平助はエミヤが「試作でね。味を聞かせて欲しい」と特別に出してくれたチョコアイスを食べ終えると、そのまま宴会の中に紛れ込む。声をかけられるが適当に受け流しながら目的の場所へと向かうと、酒をひたすらに飲み続けていた男と視線が混じり合った。コップにビールを注ぎ込むのをやめた彼は「平助」と不思議そうに名前を呼ぶので、その顔が子供みたいだと思いながら彼の隣に座り、それから黙って足をぶらつかせる。
「原田さん」
「どうした? お前、あんま酒飲まねえだろ」
「……合図をくれないから、自分からしに来ました」
――こんな事、覚えていないだろうに。
義手を見つめながらもそれでも口にした言葉に呆れ返っていると、ふと、耳につけたピアスが揺れる。矢羽根を爪先で軽く引っ掛けた左之助は立ち上がってふらふらと歩いて行った。
平助は自身のピアスに指先で同じように触れて、そのまま起き上がった勢いで彼の元へ駆け寄っていく。
針の筵から立ち上がったばかりで、血だらけだけれど、そんな平助の手を繋ぐその暖かさにあの日の満月を思い出していた。
◇
「平助」
血だらけの紐をゆるゆると解こうとしても、血が乾いて動かすのも面倒だ。小刀を取り出し、紐を千切った後で左之助は月を睨みつけた。
「もっと早く、お前に合図してやればよかったな」
左之助は同じ痛みを知っていたこの青年を連れ出してやることも出来ただろうに。平助はもう黄泉比良坂へと向かっていっただろうか。もし、左之助が黄泉比良坂で平助に出会えたならば――。
「……一緒に酒飲もうな、平助」
その紙紐を解いて、共に地獄で歩いていいだろうか。満月に照らされた平助の姿を思い浮かべ、左之助は槍を構えた。
「おやすみ、平助」
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